top of page

おはよう、そしておやすみなさい

 窓からそよそよと入ってくる風にカーテンが揺れたのを見つめながら、このマンションの一室で暮らし始めて3年が経とうとしていたことを皆木綴はふと思った。
 脚本家としてようやく軌道に乗ったのがここに来て1年経ったくらいだろうか。それからあっという間に2年。MANKAIカンパニーの寮で過ごしてきた日々さえ懐かしい。
 茅ヶ崎至と綴が恋仲になったのは、綴が20歳の誕生日を迎えた時。至からさりげなく好意を伝えられて、そのままいつもの癖でハイハイ、と流しそうになってその言葉を何度も頭の中で反復した。のだが、綴は至から好意を持たれているとは思っておらず、『冗談……じゃないんすね』と思わず聞き返してしまったのだ。途中間があったのは至の真剣な表情が綴の目に焼き付いたからだった。
 そんな二人の始まりを思い出した綴は自室に行き、キャビネットに仕舞ってある白い箱を取り出して再びリビングへと戻った。
 リビングのソファーに座って目の前のローテーブルに白い箱を置くと、そっと蓋を外してそれを横に置く。中には至からもらったプレゼントに付いていたリボンや一筆箋、今まで書いて演じてきた脚本達、アルバムに入りきらなかった写真等が収められていた。
 プレゼントに付いていたリボンは毎回違う色だったため、あの時この色のリボンだったな、と思い返す事が出来たりして綴は毎回取っておくようにしていた。もちろん最初は何気なく取っておいたに過ぎなかったけれども。
  プレゼントは普段使える物が多く、今でも使用して活躍している。
 恋仲になってからしばらくは今までと特に変わりのない生活をしていたけれど、たまに千景が出張で居ない時に部屋に遊びに行ったり、唐突にドライブに誘われたりと二人で過ごす時間は多くなっていった。綴も至の事を好きでそういう関係になったので、人並みに欲はあったし、一緒に過ごす事が嬉しかったけれど、時々喧嘩をする事も。何気ない一言から発展していくのが毎回お決まりのようで、綴も喧嘩したい訳ではないけれど言いたい事を言ってしまう事が多々あった。それも至の部屋が汚い事が原因で喧嘩に発展する事が多かったのだ。一緒に暮らしてからはなるべく散らかさないようになった至。喧嘩も以前よりは減り、
幸せな日々を送っていた。
 臣に寮での最後の夜に撮ってもらった写真を手に取ると、MANKAIカンパニーの家族や仲間達に祝福してもらって照れている様子の綴と至の姿が写っている。みんなにカミングアウトするのは付き合ってだいぶ後になったが、察しのいいメンバーは二人の間柄を気づいていたようだった。家族である春組には一番に言ったのだが、気付いていなかったのは咲也くらいだった。凄くびっくりされた後、でもよく一緒にいましたもんね、と納得して祝福してくれたのも昨日の事のように綴には思えた。
  こうして思い出すのも今日が4月2日だからだろう。
  今日は茅ヶ崎至と皆木綴が同棲を始めた大切な日付だった。
 
 
 
『至さん、一緒に見て欲しいものと、聞いて欲しい事があるんすけど』
 綴が至に同棲する相談を持ち込んだのは、三年前。本を買おうとした時に住宅情報雑誌が目に入った事からはじまった。買ったその日に勇気を出して104号室のドアをノックしたのも記憶に新しい。卯木千景も部屋で過ごしていたが、いつもの光景だと気にする様子もなくパソコンをいじっていた。
 中央に鎮座しているテーブルに情報雑誌を置いた綴はそのままラグの上に座り、表紙をぱらりと捲る。二人並んで雑誌を覗きこんで、間取りや部屋数、どうしても譲れない条件を挙げて絞り込んでいった。
 そして決めたのが、現在一緒に暮らしているこのマンション。3LDKで寝室とお互いの部屋を設け、普段はリビングで一緒に過ごすようにして、一人になりたい時や仕事が立て込んでいる時は自室でと暮らし始めた時に二人で決めたことだ。
 窓から差し込む光が満ちるこの部屋は綴のお気に入りだ。寮からも徒歩で行き来ができるため、脚本の相談や完成した脚本を持っていくのにちょうどいい。綴も大学を卒業する前に車の免許を取ったが、主に至が運転してくれるので長時間運転する時の交代役や至のお迎え、弟達と出かける時くらいしか運転していない。けれど疲れて帰ってきている至を迎えに行けるという嬉しさもあり、かなりの頻度で迎えには行っていた。
 懐かしんでいると寝室からドアの開く音がして綴がそちらを見やると眠気まなこな至が頭をガシガシと掻きながら出てきた。
「至さん、おはようございます」
「おはよ〜綴…」
「顔洗ってシャキッとしてきてくださいよ。朝ご飯用意するんで」
「ん〜…」
 まだ眠いらしい至に声をかけた綴は、途中まで準備していた朝食を完成させるべくリビングのソファーから立ち上がり、至が洗面所へ向かうのを見送った。
 キッチンに立った綴は、冷やしておいたちぎったレタスと洗ったプチトマトを皿に盛り付ける。食パンはトースターにセットし、卵3個をボウルに割り入れ少々の牛乳と塩胡椒で味付けしてから菜箸でしっかりと混ぜ合わせる。そして油を引き熱したフライパンにそれを入れ、少し焼けてきたら菜箸でくるくるとかき混ぜて再び焼く。それを繰り返して完成したスクランブルエッグをレタスとプチトマトを盛った皿に二等分して盛り付け、最後にウィンナー4本を斜めに切れ目を入れてから焼いた。
 シンプルな朝食だが、至もこういうのが好きなので特に問題はない。嫌いな物さえ入れなかったらちゃんと食べてくれるので今まで困ったことはなかった。
 先に完成したプレートをダイニングテーブルに並べ、食パンに付けるマーガリンやジャム、コップに注いだ野菜ジュースを用意しているとトースターの出来上がりのチン、という音が軽快に響いた。
「綴〜、ちゃんと顔洗ってきた。おはようのちゅーは?」
「何言ってるんですか…ほら、ちょうどパン焼けたんで熱いうちに食べましょ」
「最近扱いがヒドス」
「今は朝食食べましょうって言ってるんです。ほら、パン何塗るんすか?」
「え、塗ってくれるの…好き」
「はいはい。で?」
「バターとジャム両方」
「分かりました」
 綴は手慣れた手付きでバター、ジャムの順番に塗ると再び皿の上に置き、至の前にそれを置いた。そして自分の分も塗り、いただきますをした。
「ところで綴、あの白い箱取り出してきてどうしたの?」
「ほら、今日って一緒に住み始めた日じゃないっすか。思い出したら見たくなって出してきたんすよね」
「綴の宝箱」
 笑みを浮かべながらによによとしている表情を見るとムカつくと同時にどんな表情をしていてもイケメンだな、と綴は思う。そう思ってしまうあたり惚れた弱みではないが、だいたいの事は許せてしまえる。そう思うとやはり惚れた弱みなのだろうか。
 同棲を始めた時にバレた白い箱。真っ白いから気になる事もないだろうと荷解きしていたら考えていた事とは逆で、白いからこそ気になったと言われてしまった。中身はバレて困る物が入っている訳ではないので躊躇わず至に見せた。そこからリボンの話になって、荷解きが進まなかった事は綴も至も反省した。
「今日で3年か。あっという間な気がするんだけど」
「確かにそっすね。毎日至さんとおはようって言って、おやすみを隣で言うの慣れちゃって、至さんが出張でいない時も言ってたなぁ」
「え、なにそれ。初耳なんだけど」
「言ってないすもん。それくらい当たり前になってたんすよ」
 恥ずかしくなって綴は食パンを頬張る。至の笑顔が更に増したのを見て、やっぱり言わなかった方が良かったなと後悔した。
「まぁ、俺も同じことしてた時あったんだけどね。綴が急遽実家に帰って泊まってきた時にさ」
「え…えー。それ、なんか…嬉しいっすね。至さんの中で俺が当たり前にいるってこと」
「当たり前でしょ。綴は俺の嫁なんだからさ」
 さらっといつものセリフを至は言っただけだったが、今の綴にはどうやら効いたようで先程の恥ずかしさと至のセリフで頬を赤らめていた。
 ひたすら黙々とご飯を食べる綴が可愛いと思いながら、至はテレビの左上の時間を見やり間に合うように完食した。
 二人の同棲記念日であっても仕事は仕事だ。
 至は気持ちを切り替えながら、使った皿やコップを流し台へ持って行き水に浸けた。
「ごめん綴。お皿そのままで」
「いいっすよ。今日は午後に打ち合わせだけなんで」
「ありがとう。定時には絶対帰るから見たい映画借りといてね」
「分かってますって。ほらスーツに着替えないと!」
 前々から同棲記念日は特別なことはしなくていい、いつも通りがいいと綴の希望で二人でゆっくりと映画を見る事に決めていた。少し前まで至が仕事で忙しいのもあって時間があまり取れていなかったのもあり、二人で観る事が久しぶりだった。綴は今夜の時間をとても楽しみにしており、また、至も楽しみにしていた。
 綴に急かされた至はYシャツを着て、ズボンを履き、ネクタイを首にかけて結び、最後にジャケットに腕を通した。
「至さん、ハンカチっす」
「あぁ、ありがとう。綴のおかげで忘れ物ゼロだわ、ほんと」
「それは良かったっす。寮に住んでた時大事な資料忘れたって言って大騒ぎしてた事ありましたもんね」
「あの時はマジおわたかと思った。あの時は綴が届けてくれたんだよね」
「大学ない日でしたからね。運が良かったっすよ至さん。あの時俺以外用事があって行けませんでしたしね」
「綴に救われて生き延びた感ある。お礼に回らないお寿司行ったものいい思い出だな」
 ビジネスバッグを持つと玄関へ向かい、綴も見送りをするべく一緒に玄関へ行く。いつものルーティンで至が靴に足をかけると同時に綴は靴べらを渡す。スムーズに出かける準備が整うと至は綴へと向き合った。
「じゃあ、行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
 至を見送った綴は玄関の鍵を閉めると、洗濯機のところへ移動すると洗濯を始める。二人だけなので少ない洗濯物を洗濯機に入れ、洗濯洗剤を入れてから回す。それが終わるまでに掃除機がけを行っていった。
 大学を卒業すると同時に至と同棲を始め、バイトをしながら脚本を描く生活をしていた。今では脚本家として少しずつ名前が売れていっていて、至に金銭面で迷惑かけることもなくなった。
 掃除機を片付け、テレビで今日の天気を確認していると洗濯機の終了をお知らせする音が聞こえる。再び洗濯機の元に行き、蓋を開けてカゴに放り込む。カゴとハンガーと洗濯バサミを持ち、リビングから続くベランダに出た。
「今日もいい天気だなぁ」
 先ほどテレビでチェックした天気予報は晴れ。朝から雲ひとつない快晴で、洗濯物が良く乾くだろう。綴はそんな風に思いながら洗濯物をハンガーにかけ、物干し竿にかけていった。
 午後の打ち合わせの前に公園へ行って、子供たちのごっこ遊びを見るのもいいかもしれない。子供から受けるインスピレーションは考えもつかない事を思い起こさせてくれる。
 そんな事を考えながら洗濯物を全て干し終えた綴は水筒にお茶を入れ、冷凍してあったご飯を温めてから握っておにぎりをひとつ作った。それらをバッグに詰めて背負うと、照明やガスなどを確認してから玄関へ行き、履き慣れたスニーカーを履いて鍵を閉めて家を出た。
 
 
  
 打ち合わせを終えた綴が夜ご飯の材料を買ってから帰路についたのが17時。洗濯物を取り込んでたたみ終えた後、夕飯の準備をしていた。
 至リクエストの綴特製チャーハン。寮にいた時から至はこの特製チャーハンがお気に入りで、時々夜食に頼んだりしていた。一緒に暮らし始めてからは一緒に寝ることが多く夜更かしも減っていったため夜食にお願いすることはなくなったが、たまに食べたくなっては夕飯のリクエストにしていた。
 記念日だからと特別なことはしないと言ったものの、ちょっとだけグレードアップさせたいと思った綴は、チャーシューを買ってきていた。さいの目に切って、最後に乗せようと思っている。
 今日の夕飯のメニューはチャーハン、餃子、もやしのナムルに中華スープ。至も喜ぶラインナップだ。
 ささっとナムルとスープを作ってからチャーハンに入れる具材を切っていく。ハムと玉ねぎ、なるとを細かく切って油を熱したフライパンで炒めて、塩コショウで下味をつける。溶いた卵を焼き、少し固めに炊いたご飯を加えて、全体が混ざるように炒めて味付けをしていき、しっかり味が浸透した後お皿に盛り、切って温めたチャーシューをトッピングした。
 餃子は市販の物を焼いて羽を作ってお皿に盛り付ける。それらをテーブルに並べて準備していると玄関の鍵が開く音がした。
「ただいま〜」
 仕事が終わってLIMEしてきた通りの時間に至が帰宅してきた。綴はエプロン姿のまま玄関に顔をだし、至を労った。
「おかえりなさい、お疲れ様っす。ちょうどご飯出来たとこなんで」
「綴がいつもタイミング合わせて作ってくれるからね。着替えたらすぐ行くよ」
 至は欠かさず帰りの時間をLIMEで知らせてくれるため、この3年の間に綴はご飯を作るタイミングをしっかり掴め、至が帰宅する頃にはご飯の準備が整えられている。代わりに至は食器洗いを担当しているのだが、寮にいる頃にあまりする事がなかった為、同棲してから綴に扱かれたのもいい思い出だ。
 自室でスーツを脱ぎしっかりとハンガーにかけてから部屋着に腕を通す。今日はTシャツとパーカーとスウェットだ。綴の影響から、家で着る物にパーカーという選択肢が増え、色違いで買ったりしていた。流石に外で色違いの物を着る勇気はなく、家で二人だけの物を楽しんでいるのだ。寮に住んでた時には出来ない事が、二人だけだと出来る事が増えたのが嬉しい。
 着替え終えた至はリビングのドアを開けると、綴特製のチャーハンのいい匂いが漂っている。これだけでも食欲をそそられ、お腹が空いてくるから凄い。いつもの定位置に座って待っていると、エプロンを外した綴がコップと飲み物をテーブルに置いて着席した。
「飲み物お茶とかで良かったすか?」
「後で映画観るときにコーラとか飲むからよきよき」
「はは、ぶれないっすね」
 そう笑いながら綴はコップにお茶を注ぎ至の取りやすい位置に置いてくれる。何から何までこの3年の間に培ってきたものだ。一緒にいる時間が長ければ長いほどお互いの事が見えてくる。それはいい事も悪い事も含めてだ。でも、寮で既に見えていた部分が多かった事から二人は特に問題なく過ごせてきた。
「いただきます」
「いただきます」
 至と綴は手を合わせてそう言うと、言うタイミングも同じで二人して目を合わせて笑ってしまう。何気ない動作からも幸せが溢れてくるのがわかる。
「はは、タイミングばっちりすぎない?」
「同感っす。さ、食べてください」
「もち」
 至はスプーンを持つと早速リクエストしたチャーハンに手をつける。チャーシューが乗っていて美味しそうだなと思いながら、スプーンで掬って口に運ぶ。もぐもぐと咀嚼すると相変わらずの美味しいチャーハンの味が広がっていく。あぁ、これ。この味だと至は納得する。お店で食べるチャーハンも美味しいのだが、やっぱり綴の作るチャーハンの方が至には一番なのだ。
「まじ美味い。綴のチャーハンがやっぱり一番だわ」
「そう言ってもらえると嬉しいっす」
 はにかみながら嬉しそうに照れる綴は可愛い。そんな綴を見ながら至は餃子やスープ、ナムルも食べていく。綴は綴で作った料理を至に食べてもらうのが好きだった。だから寮に住んでいた時も夜食を作ってあげていたのも理由のひとつだった。
  お互い想う事は一緒で、だからこそ長く一緒にいられるのだろう。
 ご飯を終えてお風呂まで済ませた二人はブルーレイデッキにセットすると、リビングのソファーに並んで座る。目の前のローテーブルには缶チューハイとおつまみも準備済みだ。
「これ最近綴が気になってる脚本家さんの?」
「そうなんすよ。結構色々なの書いてて参考にもなるし、内容も面白いんすよね」
「なるほどね。自分で演じてから他の人の演じ方とか勉強になったりしてたしな。今もまだまだ勉強しないとなぁって思うし」
「至さんも大概演劇バカになってきましたよね」
「それは監督さんや春組、そして綴のおかげだよ。いい意味で俺もだいぶ変わったと思うし」
「そうっすね。みんながいたからここまで来れたってのはありますね。あのメンバーじゃなかったらなし得なかったと思うし。その中にちゃんと至さんも入ってんすからね」
「分かってるよ。あ、ほら始まるよ」
 再生ボタンを押してそのままだったため、予告がずっと流れていた。本編が流れると二人はじっと画面を観る。缶チューハイを置くのも忘れて手に持ったままだ。目線は逸らさずにつまみも手に取れるから慣れたものだった。
 そしてつまみもなくなりかけた頃、映画もちょうど終わり至は綴の感想会が始まるかと思い隣を見やるが、珍しく眠そうな綴がそこにいた。
「綴、眠い?」
「あ〜…はい…。今日昼間に公園行ったら知り合いの子供に囲まれちゃって遊んで来たんすよね」
「じゃあ明日ゆっくり映画について語ろうか。今日は寝よう」
 至が時計をちらりと見やると寝るにはちょうどいいだろう、23時半を過ぎていた。リビングの照明を落とし眠そうな綴を連れて寝室へと入る。きっとそのまま横になればすぐにでも夢の世界へと旅立つだろう。
「ん〜…」
「ほら綴。ベッドだよ」
「いたるさんも…」
「ちゃんと一緒に寝るよ。ね?」
「はい…」
 ふにゃりと笑みを浮かべる恋人は可愛い。25歳の男に使うには違うかもしれないけれど、恋人はいくつになっても可愛いのだ。出会って7年。恋人になって5年。同棲して3年。これからも色々と一緒の月日を重ねていくのだろう。そんな未来を馳せる事が出来るのが嬉しいと至は思っていた。
  ベッドに横になるともぞもぞと動き寝る体制を作る綴の横に至も横になった。
「おやすみ、綴」
「はい、おやすみなさい、いたるさん」
 相当眠かったのだろう。そう言って綴は目を閉じるとすーすーと静かな息を立てて寝入る。たまにこうやって珍しい事があるから至にもつい可愛い恋人である綴の頭を撫でたくなる時があった。
 軽く頭を撫でてから至はそっとベッドを抜け出し、自室からある物を取ってくる。綴への早いプレゼントとして買ってきていたものがあった。
  本当ならば寝る前に言いたいこともあったのだが、眠そうな綴に必要なのは先に睡眠だった。
 至は箱から銀色に光る指輪を一つ取り出し、綴の左手の薬指に嵌めた。今まで一度もこういうアクセサリーの類を若い綴を縛る事になるんじゃないかと思って買って来なかったが、ずっと一緒に居てこうやって二人で幸せを築き上げられているからそろそろ送ってもいいのかもな、と至は思い買っていたもの。渡す方法については色々と考えたが、こうやって朝起きて気づいてもらうのもいいだろう。
「朝になったら楽しみだな。どんな反応してくれるんだろうね綴は」
 そっと愛おしそうに見つめた至は寝室の電気を消し、すやすや眠る綴の隣に入る。次の日の綴の反応を見るのが楽しみで眠る前にそっと愛しい恋人の額に口づけを落とした。

参加させていただきありがとうございます!久しぶりに締め切りのある原稿が書けて楽しかったです。至綴の同棲して数年後を書いていて、二人きりで過ごしてたらこんな感じかな、と考えるのが楽しかったです。WEB公開されて皆さんの作品を拝めるのも今から凄く楽しみです。企画をしてくださったさま様、本当にありがとうございます。

 

侑銀

bottom of page